19日、静岡市に移動し、コンベンションセンターグランシップで全国市議会議長会研究フォーラム。岡下会長から、二元代表制度における意思決定機関である議会の監視機能を討議すると挨拶。岡下高松市議長とは、讃岐まつりで練り歩いた思い出が懐かしい。
議会は地方自治の根幹をなす機関
基調講演は、大森弥(旧字が出ない)東大名誉教授。地方自治は、憲法上二元代表を要請している。特に、自治体議会こそが、議決権能(決定権)を持って地方自治の根幹をなす機関である。ところが、住民にはその認識は弱い。制度上も首長の権限が優越し、そのように扱われてこなかった。それは国が首長を使い国の政策をすすめたかったからだ。議会権能の自覚と問題意識が議員自身にもようやく出てきたように思う。
1990年代から地方分権改革が言われるようになり、2000年の地方制度調査会が注目すべき報告を行っている。「地方自治の自己決定権の拡大には、自らの判断と責任において施策を決定しなければならない。それには、住民との信頼関係が極めて重要である。」首長を選出しない自治体議会は、与野党の区別はない。強いて言えば、議会はオール野党であれ。
予算提案権と議案提案権に加え、議会に出席し答弁することにより議会に影響力を行使する首長に対峙するには、チーム議会になる必要がある。そのチーム議会が監視機能を発揮すれば、住民の付託に応える住…民自治の基幹的役割を果たせるのだ。
昨今の一部の議会、議員の政務活動費のずさんな有様では、首長監視どころではない。自らを律し、監視機能への住民信頼を回復させなければならない。
監視機能活用による議会改革【パネルディスカッション】
コーディネーター
江藤俊昭 山梨学院大学院教授
パネラー
斎藤誠 東京大学大学院教授
土山希美枝 龍谷大学教授
谷隆徳 日本経済新聞論説委員
栗山裕之 静岡市議会議長
江藤コーディネーターは、冒頭に、地方議会改革は10年を経過し、議会基本条例が700超の地方議会で制定されて本史突入の宣言となってきた。これからは、議会改革第二段階だと述べた。その課題は、議会改革を住民福祉向上につなぐこと、自治体間連携と自治体内分権、基本条例に基づく組織権限の規定、新たな議会の条件整備として、議員報酬・定数、議会事務局・議会図書室の機能強化、政務活動費のあり方などを挙げた。
二元代表に相応しい権能とは、住民を起点に、市の総合計画を軸に、行政評価と決算と予算を連続的につないで監視と政策提言を不断に行っていくことだ。
今フォーラムの論点は、まず監視権をいかに使いこなすのか。第2に決算認定のあり方。第3に監査委員を議会から出す制度が選択制になる方向について。
監視権の拡大は、自治法上議決権の対象拡大として、分権改革と共に議論されてきた。その拡大には、執行権を行使する首長は抵抗感が強いが、住民自治の進展には不可欠だ。金沢市議会議会基本条例でも、条項に加えた。
ところで、監査とは狭い概念であり、監視・監査機能という概念から、日常の議員活動や議会活動が、連続した監視・監査機能を果たすものだとの提起が土山教授からあった。その際、議員個々の気づきを議会全体のものにするシステムが確立されなければならないと。市民生活の向上という方向性を持ってこの連続した監視・監査機能が果たされれば、それは首長権限に対する市民制御となる。
この点は、静岡市議会栗山議長の報告に具体的に意識づけられていた。議会活動総体が監視・監査機能を果たすのだと。
谷日経新聞論説委員からは、住民の中で賛否が分かれる争点については、議会が住民の多様な意思を吸い上げる手法を講じるべきだと問題提起した。
金沢市議会で言えば、家庭ゴミの有料化について、行わないことを求める陳情書を継続審査にして、地域説明会や議会意見交換会のテーマにして住民意思の把握に努めていることが該当する。
問題は、最終局面で、議会が住民意思に沿って意思決定が出来るかどうかだ。
監視権をいかに行使すべきか
全国市議会議長会研究フォーラム二日目20日は、課題討議。コーディネーターは、『地方議員の逆襲』を今春刊行した佐々木信夫中央大学教授。事例報告者は、佐賀和樹藤沢市議会前副議長、井上直樹和歌山市議会議会運営委員長、そして嶋崎健二日田市議会議長。
藤沢市議会は、前市長が行った土地の先行取得には疑義があると、改選後の2011年6月に、地方自治法に基づく100条委員会を設置して調査した。強い調査権限により、延べ54人の証人、参考人招致を行い、黒塗りしない資料、関係者のメモ、手帳などを提出させ、独自に不動産鑑定を行い、土地公社の買取価格が不適切に高いことや、買取が決まる事実関係を明らかにした。
100条委員会は結論として、市に土地公社からの買い戻しをしないこと、前市長等関係者に責任追及すること、刑事処罰の可能性が高く、市は刑事上の責任追及に適切に対応することを現市長に求めた。
金沢市でも、2014年に、市長の場外車券売り場誘致に関わる便宜供与などの疑いに対して100条委員会を設置した。私は議員辞職中だったが、しかし、与党の腰折れから、当初意図した事実解明には十分に至らなかったと、同僚議員は苦々しく振り返っていた。
報告者の佐賀副議長は、問題発覚時前市長側にあり、問題意識に乏しく擁護する言動を行ったことを悔いていた。そして、100条委員会の設置は名誉なことではないが、前市長告発に至り、3年間に及ぶ藤沢市の混乱に議会総意としての明確な意思表示ができたと、成果をまとめた。
和歌山市議会からは、附属機関への議員の参画の是非を検討していることが報告された。問題となるのは、附属機関に委員として参画すると、議会の監視機能にマイナスになるのではないかという点だ。附属機関での意思決定に議会審議が拘束されないか?との問いだ。因みに金沢では、その立場から、法定審議会以外には、審議委員を送らないと決定してきた。
日田市議会からは、地方創生に関する議会提案のために、市内20箇所で市民との意見聴取会を行い、市長に議会としての施策提言書を提出した取り組みが報告された。こうして、水郷ひたの清流復活が、まち・ひと・しごと創生総合戦略に組み込まれた。
地方創生なるテーマが、果たして市民に切実なものか疑問もあるが、関連討議で、このような市民との意見交換会は一部市民の意見しか聞けず、その必要性は認められないとの意見が和歌山市議会議運長から聞かれたのには驚いた。
コーディネーターの佐々木信夫教授が今後に期待すると提起する地方議会改革のうち、傾聴に値するのは、次の点だ。
自治体は事業官庁から政策官庁へと脱皮しなければならない。その中心に議会が存在している。分権化に伴う議会改革は、行政改革に止まるのではなく、本丸である政治改革を本質としなければ意味はない。政治の質を高めることに、議会改革は注力すべきだ。
そのためには、監視権の行使を含む政策形成力を高めることが必須だ。議会に国会のように法制局を設置し、法制企画力を備えた専門職員を置くべきだ。また、議員個々が政策形成のサポートが受けられるよう、政務活動費の改編を行い、政策調査を支える人件費を公的に担保するのも一考だ。
地方議会では、議員の成り手が総体的に減少している。無投票選出による議員は、真に代表者と言えるだろうか? 報酬額、身分保障の在り方、議会活動の抜本見直しなど人口減少時代にあったものに改める必要もあろう。
辞職前の2012年、金沢市議会議会基本条例制定に深く参画した一人として、議会改革は、地方政府を存立させる地方民主主義の実践場だと強く思う。この議長会研究フォーラムも、形から内実へと視点が進化している。各自治体の現場でいかに議員がチームプレイを拡大充実させていくか、日々が問われる。
二日間の全国市議会議長会研究フォーラムが閉会した。詳細報告はフェイスブックで掲載してきたが、最終は追って。ようやく撮影チャンスが訪れた富士山の雄姿。冠雪していない富士山は、黒々と重厚だ。