4月20日月曜日、天候は曇り。朝食バイキングをすませいよいよ 視察に出発。ロータリーの交差点、民家を抜けて、三菱自動車の営業所の建物を過ぎると、赤煉瓦・赤い瓦屋根の児童福祉・教育局が見えてきた。
児童福祉局秘書で情報担当のマリアンネ・ペアソンさんと、元校長で教育局コンサルタントのピーター・アーノンブさんが我々を会議室へと案内してくれた。
【児童福祉の概要】マリアンネ・ペアソンさんの説明から
ー体制ー
児童福祉(保育幼児教育)は、国の法律にもとづいて動いている。全国どの地域でも基本的にはちがいはない。ただし地方分権なので、かなり自由な政策がとれている。
エルシノア市は人口が6200人、市会議員が25人、選挙は4年に一度である。中央政府は2年半前に社民党から保守党連立政権に交代があったが、エルシノアも保守党が過半数である。議員は職業を持ちつつ活動している。6つの委員会と財務委員会の7委員会制である。その中に、児童福祉、教育を管轄する青少年委員会がある。
青少年委員会は、4党7人が所属しており、この委員会の下で議員と行政が緊密に連携して政策を担当している。委員会は3週間から4週間に一度開催され、議員の他各行政の長、秘書、テーマによっては専門家から意見を聞く。委員会は市民に公開されている。審議する内容は、市民からの意見、施設・学校からの問題提起、議員からの意見などで、議員は積極的に関わるので、行政としてはかなり忙しい。現在問題になっているのは、子どもたちの健康問題と各施設、学校にゆだねられている予算が適正かどうかである。
ー予算ー
児童福祉、教育分野の予算は、市予算の36%8億2000万デンマーククローネで、高齢者福祉予算も同程度である。そのうち47%が学校教育、42%が児童福祉施設に配分されていく。この分野を運営する行政官はわずか35人。教師や児童福祉職員は2000人。これは総公務員の44%である。学校や施設毎に管理者、職員、保護者、生徒からなる理事会があり、予算執行から人事・運営まで任されている。行政は支援だけなので、少ない人数で済むのである。
3年前国の法律で、市は親が希望すれば、児童福祉施設に0歳から14歳までのすべての幼児・児童を受け入れなければならないと決まった。
ー児童福祉施策ー
14歳までのサービスは、以下のようである。
@保育ママ(保育ママの自宅で家族的雰囲気の保育)
・・市認定の保育ママ現在30人 幼児教育者の行政官である保育ママ指導士が面接し、認定保育ママが孤立しないよう、保育ママと幼児教育者、行政官が共同の遊び場に参加して研修している。
A保育所(0歳から3歳)
B幼稚園(4歳から6歳) 但し、近年は統合の考え方で年齢では分けず、統合施設で保育教育している。これは、職員配置が柔軟にでき、子どもの年齢層の推移に対応しやすいからである。
合計対象児は8000人である。
0歳から3歳までは給食、4歳以上は弁当を持参する。
学校には1年生の下に幼稚園組が設置されている。
放課後は、学童保育は10歳まで利用でき、施設として登録した子どもたちを把握する。それ以上はフリータイムクラブを利用し、出入り自由である。
これらの施策は、50年の歴史の中で家庭というものが大きく変わってきたことによる。戦後女性が社会に進出し、専業主婦はごく少数になった。共働きが普通の社会となり、子育てとどう両立したらよいか模索してきた社会制度である。
【質 疑】
Q:施設への予算配分の基準は。
A:生徒数、年齢、建物そして特段の理由があればプラスαが配分される。
Q:政党の構成はどうか。日本のような教育委員会はあるのか。
A:国会は9、エルシノアは5つの政党からなっている。教育委員会はない。
Q:子どもが病気になったらどうするか日本では不安があるが。
A:公務員は子どもが7歳まで子ども一人につき親一人当たり年間2日の福祉休暇が与 えられている。民間企業では、法律ではなく、労使協定で行われている。会社が病気 の子を一時預かる施設を設けるという話も出ている。
Q:保育・幼児教育の変化はあるか。
A:ごく近年、保育でも幼児教育者という色合いが強くなっている。背景には、家庭の教 育力の低下、親の意識が一世代前とは変わってきたことがあげられる。共働き社会 で、女性が長時間働くようになると、家庭での子どもたちとの時間は楽しく過ごそうと いうことになり、しつけもサービス提供機関に任せればいいという考えが出てきてい る。核家族化がすすみ、地域で子育てを学ぶことが難しくなっている。
Q:障害のある子の養育はどうか。
A:できるだけ一般の施設で受け入れる。その場合、マンパワーを加える。他の子どもた ちと一緒に過ごさせるが、時には特別な訓練も行う。
Q:日本では幼児虐待が問題になっているが、エルシノアではどうか。
A:社会的な問題としてはない。保健士は子どもに専念し、生後すぐから家庭訪問を行い 、家庭環境、状況の把握をしているので、母親が孤立する状況は続かない。
【義務教育】(ピーター・アーノンブ コンサルタントの説明より)
ー学制ー
デンマークの義務教育は、基本的に9年間の国民学校による一貫教育である。国民学校には、義務ではないが1年生の下に幼稚園組と9年生の上に10年生がある。どちらも本人や保護者の希望にもとづく。
ーエルシノア市の体制ー
国民学校が17校あり、7200人の生徒が500人の教師と共に学んでいる。17校のうち一部は3学年の小規模の学校も含まれている。生徒数は105人から680人まで様々である。
デンマークでは公教育はもちろん無料である。学校の教育の執行機関は理事会である。 理事会は、市教育局が任命し、学校運営と財政の責任者である校長と保護者代表、教職員代表、生徒代表2人で構成されている。理事会メンバーは4年に一度選考される。ミーティングには青少年委員会の議員ができるだけ参加する。理事会は学校の教育の原則、予算案の承認、教材の決定などが行われ、教員の採用を決定する。教員は学校に採用されるので、人事異動はない。理事会に生徒代表が参加するのは、学校教育は民主主義を学ぶ場であるとの考え方があるからである。
ー教育の独立性についてー
デンマーク中央政府が新政権に移行後、変化が起こっている。かつては大枠のみ国が決め、どのようにして目標にたどり着くのか教師が自分たちで決めてきた。自由選択が重要と考えてきた。各学校は独立採算性をとり、独自性をもってきた。校長は月に1回行政官とミーティングして連携を図っている。ところが、予算の使い方、授業の質が学校によって格差が大きいことが分かったということで、国がコントロールに乗り出してきた。現在、政府が教育の内容を問うようになっている。
ーエルシノア市の特別なとりくみについてー
第1は「許容性」である。県は知的に重度な障害のある子どもたちのために専門の学校を設置しているが、身体に障害がある子は一般の学校にある障害児学級に通っている。そのためにマンパワーを加えている。市内の学校に27の障害児学級が設置され、190人が学んでいる。また、LDやADHDなど通常の授業についていくのが難しい子にはスペシャルクラスを設置している。市内に2クラス、28人が学んでいる。25%の子どもたちが何らかの特別学級で指導を受けることになっている。
しかし、このあり方に対して、学校が国民学校ではなくなってしまうという意見が出てきている。子どもにあったということも大切だが、一般クラスの中で許容を拡大しよう(通常学級での共生共学)としている。元に戻すのはかなり大へんなことである。教師の意識が変わらなければならないし、保護者がなかなか理解しないからだ。
第2は子どもの日常生活の調和である。子どもたちにとり、それぞれの機関での生活がバラバラであってはいけない。年齢区分で切れないよう調和を図ることが大切だ。児童施設と学校が、学校と学童施設、フリータイムクラブが連携し統合されなければならない。学校敷地内の学童保育施設や近くの学童保育施設に学校の教師も参加して、低学年児童の遊びがスムーズになるよう一緒にとりくんでいる。
【質 疑】
Q:国の教育制度はどうなっているか。
A:国には文部省がある。教職員の給与は支払い者は市であるが、全国自治体連盟と
教職員組合が交渉して決定される。それにもとづいて各ローカル交渉が学校を単位 に
行われる。
Q:給食はあるのか。
A:現在は給食はないが、望ましいとは考えている。少しずつ食事を校内で買えるように なってきてはいる。
Q:学校の職員構成は。
A:校長、副校長、教師以外に事務職員、メンテナンス担当の校務士である。
教師は人手不足である。資格取得は4年だが、4年未満でも特別の技能があれば、 教員になれる。また、他の資格者が2年学べば教員資格を得るようになっている。
Q:教科書の採用はどうなっているのか。
A:教科書はほとんど使わない。教材は各教師が選定し
、理事会に諮られて決定される。 各教師に自由度があるが、理事会の教職員集団の教育課程に対する信頼関係がベースになければならない。
Q:ジェンダーフリー教育は行われているのか。
A:特別な教育はない。個々の教師の問題意識の中でと りあげられていくものである。
Q:日本では「学級崩壊」、不登校、荒れなどが問題になっているが、エルシノアではど
うか。
A:社会問題としてはない。(何のことかといった感じの受け止め) |