1.視察にあたって
1月関西中国コースとして大阪府豊中市、広島市を視察した平和・人権行政視察の第2弾。関東コースとして視察先に国にもの申し、独自市政を展開する東京都国立市と千葉県松戸市を選んだ。
2.視察日程
| 2月16日(月)東京都国立市 |
企画部政策推進室、市庁舎横小公園のアンネのバラ視察 |
| 2月17日(火)千葉県松戸市 |
市民環境本部市民担当部市民相談課、教育委員会学校指導課、生涯学習課視察 |
| 2月18日(水) |
神田古書街 |
3.国立市視察
(1)企画部政策推進室の施策説明
国立市には、予想に反して平和・人権行政を統括する専門の部局がない。私の視察依頼に対して応対されたのは、政策推進室の木藤博之室長、同室女性施策・NPO担当松澤純一主査のお二人だった。
国立市というと、私にはあの日の丸・君が代強制反対・子ども主体の教育実践や住基ネット離脱、市長による有事法制反対意見書、自衛隊イラク派兵反対の意見書など、革新的市政と地域柄をイメージしていた。議会事務局による冒頭の市政概要説明では、確かに市民意識は高いが、甲州街道沿いの旧村地区と駅から一橋大を中心とする学園地区では意識に違いがあるとのことである。人口が約73000人、ご多分に漏れず財政が逼迫し、税収不足で昨年度赤字決算となり、市幹部、職員の給与カットが実施されているという。
文教のまち国立は、早くも1952年、朝鮮戦争時隣接の立川米軍基地に関わる風俗産業立地に反対する住民運動により、まちを二分する大論争を経て国の文教地区指定を勝ち取る。以来、学園都市を標榜する文化のまちづくりに共感してやってきた住民により、独自のまちのアイデンティティが形成されてきた。国立の市民意識のルーツであろう。
この国立では、人権啓発の啓発について特別な力みはない。啓発重視はすでに段階を終えており、具体的な施策として各事業の中で推進するという姿勢を強調された。男女共同参画の施策では、条例はないが、第三次男女平等推進計画に基づき、2005年までに95事業が展開されている。セクハラ対策、DV防止と被害者救済そして女性の就業環境の改善の3課題に重点が置かれる。具体的には、セミナーや職員による出前講座、点検評価のための女性問題市民委員会の設置、2004年度中にファミリーサポートセンターを立ち上げるなどが計画されている。性同一性障害への配慮から、印鑑証明申請書から性別欄をなくし、庁内書類の総点検を行っているそうだ。法的義務づけのないものから順次撤廃していく方針だ。
公民館(金沢のとはイメージがかなり違う)を拠点に住民運動が活発に展開されてきた国立では、NGOとの連携を重視している。連携の拠点づくりとして、NPO等情報連絡会をつくっている。市民の自立のとりくみは財政難の市政活性化に有効との判断も行政にはあるらしい。
(2)突然、上原公子市長があいさつに現れる!
2000年から市長に就任している上原公子市長が突然会議室にやってこられた。昨年全国市長会で金沢を訪れた際、山出 保金沢市長に世話になり、一言お礼を言いたいとのことだった。忙しい公務の合間、バイタリティを感じさせる早口で一気にしゃべられた。「山出市長とは良く話が合いましてね。どうかよろしくお伝え下さい。」本当にはなしがあった?聞き返すわけにもいかず、名刺を交換し、帰沢後のお約束を交わした。思いがけなくも今話題の上原市長にお 目にかかれて、ちょっとしたミーハー気分を味わった。
さて、その上原市長が就任し、平和政策を前面に出す意向が鮮明になり、平和・人権行政の専門部局新設の方向が出てきているようだ。元気いっぱいの市長とは対照的に、議会事務局、政策推進室の二人の職員は、少数与党での議会運営に頭を悩ましている様子がありありで、苦労話も聞くことができた。共産党市議が議長を務める議会は、共産党3,市民派諸派6?(社民は議席無し)の少数与党で、助役、教育長の市長人事案件が否決され、ポスト空席の状態が続いているそうである。行政マンとしてはしんどいを連発していた。
(3)首長の力を実感
その上原市長は、議会による80年代の非核平和都市宣言では生ぬるい、行政が率先してと市長就任後の2000年6月に国立市の国立市平和宣言を発表した。その中で「この世に正しい戦争などというものはありません。地球上に、もうこれ以上の血を流してはなりません。」と 言い切っている。その実践の一つが政府への度々の意見書送付である。
国立市の平和行政のシンボルがある。アンネのバラである。『アンネの日記』著者フランクの父が平和を祈って育てたバラの種から育った苗が、福山市のNGOの協力で送られた。平和宣言を記念し、市庁舎横の公園にある平和記念像を飾っている(冬のバラは枝ぶりだけを魅せている。詳しくは国立市のHP参照されたい)。
そのアンネのバラをバックに記念撮影し、ハプニング付き国立市の視察を終えた。
4.松戸市視察
松戸市は、人口46万余、金沢とほぼ同程度の規模の都市である。また、同和指定地区がないことも状況が共通している。この松戸市は1998年に人権擁護都市宣言を採択している。人権施策推進のための庁内組織を持つという点では豊中市に類似している。
(1)市民環境本部市民担当部市民相談課、教育委員会からの施策説明
市民相談課からは、豊倉さと子人権担当課専門監と平野昌弘課長補佐が、教育委員会からは生涯学習本部関口妙子公民館長、学校指導課担当者が説明に出席された。
@施策の展開
松戸市は、1980年代の幾つかの差別事件と市への批判を機に、同和対策のとりくみに力を入れてきた。1998年策定の松戸市総合計画の基本理念の一つに、「人権が尊重されすべての市民が安心して暮らせる社会」が掲げられている。そして、「すべての差別・偏見の解消、子どもの権利の尊重などさまざまな人権に関わる問題の解決に取り組み、市民一人一人が互いに理解し、人権を尊重しあい、ともに支え合う社会の形成を図ります。」と施策の方向性を示している。
より具体的には、人権尊重の市役所づくり、市民の人権意識を高める、人権侵害被害者を救済支援するしくみづくりが政策展開の方向であり、性差別の問題、子どもの問題、高齢者の問題、障害者の問題、同和問題、外国籍市民の問題、患者の問題が課題として挙げられている。
これらに基づき、あらゆる領域にわたる政策プログラムを定めるため、各部局から課題別行動計画が策定され提出されている。人権担当の調査によれば、今年度104の課から477件の行動計画が報告されているとのことである。また、職員の人権意識を高めるため、課自主的な職場研修会を奨励しているが、75課で実施が報告されているという。この数字は、担当の予想以上のものであるそうだが、直接市民と接している課とそうではない課との意識の違いは否めないとも率直に言われた。しかし、例えば縁遠いと思われがちな工事検査課 (建築指導課?)では、基準に適合しているかどうかだけの物差しではなく、バリアフリーやユニバーサルデザインの視点を持つことが人権の視点を持つことになるといった論議が生まれているという。
課題別行動計画の事例としては、松戸市男女共同参画プラン、フリーセル保育試行計画、セクハラ防止基本方針、人に優しい公共施設設計指針、高齢者施設運営マニュアル、鎧個人市民会議設置計画、子どもの虐待防止ネットワーク運営計画などなどがある。
A進行管理システムと庁内組織
これらの人権政策は、進行管理システムにより進捗が調査・評価され、年次的に見直し作業が続けられる。担当者は、わずか3名(そう記憶している)である。そこで庁内組織として部局横断の人権施策推進本部が設置されている。正副本部長は市長、助役であり、本部員は各部長である。先に挙げた7課題担当課長による専門部会が具体的な施策等を報告提案する。その事務局としての役割を人権担当が行う。決定された方針は40課の庶務担当課長からなる幹事会を通じ、各課に伝えられ、全庁的方針となり実施に移されるという仕組みである。
B公民館の果たす役割
「このまちに人権文化を築くために」松戸市は社会教育機関としての公民館(金沢では中央公民館)で人権啓発の講座を活発に実施している。人権問題を正面切ると受講者が少なくなるため、講座名に生活に密着した表現をとるなどの工夫を行っている。
C外国人市民会議の活動
人口比1.5%という中国人、朝鮮・韓国人、フィリピン人、ペルー人などの外国籍市民が多く在住する松戸市では、豊中市でもとりくまれている「外国人市民会議」を設置し、外国籍の市民が差別や偏見から解放され、市民として安心して暮らせるようとりくみを始めている。2001年度から年二回の懇話会を開催し、直接外国籍の市民が生活上の問題や市への要望を発言で きる外国人市民懇話会を開催している。
論議の内容は、報告書によれば、外国人のネットワークづくり、言葉の問題支援、情報提供(『広報まつど』にひらがなルビなど)、住宅入居差別解消、子育て・保育・教育問題相談体制、国際交流など多岐にわたっている。しかしながら、地方参政権問題など政治に関する課題は出されてはいないようである。
(2)感想
金沢市さんの立派な人権施策に比べると、あまりお話しすることもないなどと、謙遜の言葉で話が始まったが、金沢と類似する松戸の組織的な人権施策体制は、学ぶべきものが多い。差別事件に学び、組織体制を工夫してとりくみをすすめている真摯な姿勢が伝わってきた。着実な意識改革の前進も実現している。
5.一連の視察を終えて
1月そして2月と4つの都市を個人視察させていただいた。それぞれ規模も歴史も異なる4都市の施策を並べ、単純比較すべきではない。国政が平和憲法に離反し、人権規制の方向を強めている中、各自治体での施策推進にはある意味逆風が吹いている。あの豊中や国立ですらジェンダーフリーに関わるバックラッシュがある。豊中では昨年、右翼的な反対勢力の攻撃に曝されながらもようやく男女共同参画推進条例の制定にこぎ着けている。 今後有事法の一環を為す「国民保護」法制の制定によっては、自治体権限が制限され、平和的生存権や市民的権利侵害が市民生活に及んでくる可能性が高まっている折り、生活者の視点から平和・人権施策を地道に積み上げることの意味は大きい。
全国幾つかの地域で「無防備宣言」条例化運動が始められているという。市民を戦争に巻き込まない地方自治を確立しようとする市民の運動である。言い過ぎかも知れないが、平和・人権施策では金沢は後進市との評がある。市民意識においてもである。視察都市の体制を一朝一夕に金沢に構築することは出来ないが、非戦平和条例(「無防備宣言」条例と共通点あり)を目指す市民の運動を具体化し、それと結びながら行政の体制も変えていく活動をこれまた地道に展開したい。
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